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視点POINT OF View

 レーザ加工研究のすすめ~砥粒加工研究者がレーザ加工の明日を切り拓く~

 砥粒加工学会 学術講演会で「光・ビームによる加工技術」というセッションがある.そのセッションでキーノートを依頼された.軽い気持ちで「レーザ加工研究のすすめ」と題して勝手な話をすることで承諾してしまった.その後,さして妙案も浮かばず,よく知るその学会の定款が何かと頭に浮かんできた.第3条に「この法人は,砥粒加工学に関する学理及びその応用についての研究発表,情報の交換及び内外の関連学会との連携協力を行うことにより,砥粒加工学の進歩普及を図り,もってわが国の学術の発展に寄与することを目的とする.」と記されている.さらに第9条には「会員が次のいずれかに該当するに至った時は,社員総会の決議によって当該会員を除名することができる.(1)この定款,その他の規則に違反したとき (2)この法人の名誉を傷つけ,又は目的に違反する行為をしたとき」と記されている.“砥粒加工はやめて,レーザ加工研究をやりましょう”とすすめたら除名処分になるのでは?・・・遅ればせながらキーノートスピーチを断るよい言い訳ができたと一瞬喜んでみたものの,すぐに自分の無責任さを反省し,結局,妙案の浮かばぬまま,除名処分にならない程度にレーザ加工研究をすすめてみることにした.

 1960年5月 メイマンがルビーレーザの発振に成功して以来,多種多様なレーザ発振器が開発されてきた.高価なイメージのあるレーザ装置であったが,とくに光通信が発達すると,ファイバー技術の進化とともに,低ノイズで小型のファイバーレーザが発展した.そのうち,ファイバーレーザの高出力化が進み,加工に用いることができるようになった.メンテナンスも容易で,数十W程度のパルスレーザなら微細加工に十分使えて,気軽に購入できる価格となった.ピコ秒やフェムト秒で発振する超短パルスレーザも,高出力化が進み,産業分野での利用が進んでいる.微細加工なら小出力のものでよく,価格は下落傾向にある.超短パルスレーザは一昔前まで、扱いが難しかったが,コンパクトでメンテナンスフリーに近い発振器も登場している.いまや加工屋にとってレーザ装置は入手可能な時代となり,レーザ加工研究を始めるには今がよいタイミングではないだろうか.

 砥粒加工からみると,レーザ加工には多少違和感を覚える.なぜなら,研削砥石は特定の材料をどのように加工したいか目的に沿って設計製造される.ところが,レーザ加工では工具である光線に対して,“何に使えるのか”といった目的探しから始まる.加工屋からしたら,本末転倒である.しかし,別の見方をすれば,使い方は個々の研究者次第とも言える.レーザ光が“多芸多才”と言われる所以である.1987年日本国際賞授賞式でメイマンは,レーザについて次のように述べている.「私より優れた人々が,この多芸多才な装置の,さらに多くの使い方を発明してくれることを期待したい.そしてレーザが単なる発明物としての役割を超えて,未来の人類にとって,真に価値あるデバイスになっていくことを希望します」レーザとは専門家だけのものではなく,むしろ,さまざまな分野で特異な目的のために活用してこそ,本来の意義があるように思えるのである.よって,砥粒加工で培った知見と経験をもつ研究者が,もしもレーザ加工を研究したら,レーザの専門家には思いもよらない独創的な研究テーマが見つかるのではないかと期待しているのである.

 レーザおよびレーザ加工の特徴について述べてみたい.レーザ光は,単一波長で位相が揃っており,可干渉性,指向性に優れている.焦点は波長程度に絞り込むことができ,極めて高いエネルギー密度やパワー密度が得られるのが特徴である.比較的波長の長いレーザを材料が吸収すると,格子振動が生じて溶融,蒸発,プラズマへと短時間で変化していく.産業界では鋼板などの切断,穴あけ,焼き入れなど,この熱加工プロセスが多用されている.加工時には,レンズを保護しつつ溶融物を吹き飛ばし,加工を促進させるためにアシストガスが使われる.このガスの種類を換えれば,酸化を促進させて加工効率を高めることができる.逆に酸化を抑制すれば切断面の仕上がりを良くすることもできる.砥粒加工で難加工性のダイヤモンドでも容易に切断できる.
 レーザ加工にはもう一つ,非熱加工プロセスがある.これには超短パルスレーザや波長の短い紫外線レーザが利用される.超短パルスレーザでは,除去が極めて短時間なため,照射部周囲に熱伝導で溶融領域ができ難く,高品位な微細加工が可能である.また,材料を透過する波長でも,集光部では光子が複数個作用して,短波長化して材料に吸収される.これにより,材料表面にはダメージを与えずに,内部だけを加工することができる.これは機械加工にはない,レーザ加工の特徴である.一方,紫外線レーザは短波長であるため焦点を小さく絞ることができ,微細加工に向いている.また,光子エネルギーが高いため,物質の化合物状態を光解離させて改質させることもできる.ただし,熱加工のような除去は必ずしも期待できないので注意が必要である.
 光には質量がないため,ミラーで光を走査すれば高速加工ができる.またビームとレンズが一対しかなくても,回折光学素子を用いれば,ビームを同時にいくつにも分岐でき,それぞれの焦点(加工点)を三次元空間上に形成できる.しかも作用力がほぼゼロであるため,装置剛性を気にしなくて良い.加えて工具摩耗も気にしなくて良い.超精密加工装置と超短パルスレーザを組み合わせれば,かなりの高速・高精度加工が可能である.ただし,光軸方向の加工制御が難しく,nmの精度を達成するには,これを解決しなければならない.作用力がほぼゼロと前述したが,光が屈折や反射をすると,界面でnNの力が生じる.これはφ数µmの透明な砥粒を捕捉でき,高速に動かすことができる.また三次元組立作業にも使える.今後,砥粒加工への応用が期待される.

 砥粒加工に関連した過去のレーザ加工事例を見てみよう.
●30年前には,レーザドレッシングが研究されている.大橋らはYAGレーザでレジンボンド砥石のドレッシングを試み,砥粒突き出し高さが飛躍的に大きくなり,研削性能が向上したという.また最近,ダイヤモンドの凹凸表面をレーザ援用でグラファイト化させて高速研磨する手法が試みられている.
●20年前には,レーザピーニングが応力腐食割れの発生,進展を抑制するために使われた.ショットピーニングに比べて効果が確実で再現性が高いという.近年では,持ち運び可能な小型のシステムも開発されている.
●FPDのノングレア反射防止シートは,サンドブラストで表面を荒らし製造する.ただし,シートの中央と隅では,使う砥粒の形や大きさを換えて,光を隅々まで均等に届かせる職人技が必要である.そこで,これらのドット形状を計測し,これらのドットをレーザで形成できれば,確実な表面加工ができる.そこで実験を行った結果,現状よりも反射を抑え,より画像を鮮明に透過させることができた.レーザ加工は砥粒加工の職人技を技術化する手段として有効であることがわかった.
●メカノケミカル作用を利用した鏡面研削砥石では,高速にシリコンを鏡面化できる.ただし,加工変質層の評価には時間もコストも要する.開発した砥石の最適加工条件を早く選定するには,オンマシンで手軽に加工変質層の有無を判別できると有益である.別目的の実験であったが,鏡面研削の初期段階でシリコン表面にレーザを照射したところ,照射部に前加工面の傷が現れた.この傷は鏡面研削が進むと,レーザ照射しても徐々に出現しなくなった.この傷は当初,応力解放による潜傷ではないかと思った.しかし調査の結果,加工初期にはシリコン表面に僅かな流動層が生じているらしく,この層がレーザを吸収して蒸発することで,前加工面の傷が露出したことが示唆された.
●半導体結晶材料内部にレーザを侵入させれば,内部から亀裂がウエハ上下面に進展してダイシングができる.光MEMSでは欠かせない加工装置になっているそうである.一方,ダイシングとは90°異なる方向に面亀裂を進展させれば,大口径のウエハでも薄く剥離できる.また,加工中に焦点を三次元操作すれば剥離面に機能性パターンや面取りを同時に施すことができる.これまでに,各種硬脆材料でその有効性が示されており、ダイヤモンドでも本来の劈開方向を利用して,どんな方向にスライスできる手法が提案されている.
●ガラスでも内部にレーザを面走査すれば膨張層が形成され,亀裂の進展で鏡面剥離ができる.レンズ輪郭に沿ってレーザを面走査すれば,レンズが製造できる可能性がある.ギザギザなガラスエッジにはCO2レーザを照射すれば,溶融し表面張力で瞬時に丸みが形成できる.
●単結晶シリコンの研削ダメージを粗さと共にレーザで修復する技術が研究され,実用化が進められている.もし,レーザスライシング面に対してこの技術が適用できれば,鏡面のシリコンウエハを切り屑,加工変質層なしで作製できることになる.加工研究者が長年夢見てきた理想の加工が実現できるかも知れないところまで来ている.

 以上より,レーザ加工ではワイヤーソー,研削,研磨と競合する技術も生まれている.レーザは多芸多才である.砥粒加工のニーズを捉えて,レーザ加工に取り組めば,今後,独創的な研究が多く生まれると期待される.レーザを砥粒加工に援用すれば,砥粒加工の発展にも寄与できる.レーザ加工研究を始めてみませんか.



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